平成30年09月01日
昨年、厚労省より「抗微生物薬適正使用の手引き 第1版」が公開されました。
この背景には、不適切な抗菌薬の使用による薬剤耐性菌とそれに伴う感染症の増加が国際社会の大きな課題となっていることがあります。このまま何も対策が取られなければ、2050年には全世界で年間1,000万人が薬剤耐性菌により死亡すると推定されています。将来的に感染症を治療する際に有効な抗菌薬が存在しないという事態になることが憂慮されています。薬剤耐性(Antimicrobial Resistance: AMR)対策として抗菌薬の適正使用が必要になっています。
日本では、経口の第3世代セファロスポリン系抗菌薬、フルオロキノロン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬の使用量が多いことが指摘されています。
風邪や下痢の大部分は抗菌薬の効かないウイルス性の感染症や抗菌薬を飲んでも飲まなくても自然に治る感染症です。抗菌薬が効くか効かないかはとても大切な区別ですので、抗菌薬が必要ないことを確かめた上で抗菌薬を処方するかしないかを判断しています。本当に抗菌薬が必要な状況と不必要な状況をしっかりと区別し、抗菌薬が必要な患者さんにだけ投与するという方針に進んでいます。
『抗菌薬意識調査2017』調査結果
国立国際医療研究センター病院で抗菌薬の正しい知識や使い方についてのネット調査の結果が発表されました。調査は9・10月にインターネットで実施し、一般の10代~60代の男女710名が回答しました。
抗菌薬・抗生物質とは何か知っている人は、37%でした。また抗菌薬が有効と思う病気を複数回答で聞くと、インフルエンザが50%、風邪は44%に達し、正しい回答の肺炎(29%)や膀胱炎(26%)を上回っていました。抗菌薬は細菌に対する薬で、インフルエンザや風邪の原因となるウイルスには効きません。
医師に処方された薬を最後まで飲み切らなかったことがある人が37%いました。また家族や他人から貰った抗菌薬を飲んだ事がある人も21%いました。抗菌薬は途中で薬の量を減らしたり、中止したりすると、細菌が完全に死滅せず薬剤耐性菌になることがあります。
これは、病院をはじめとした医療機関内でも、また医療機関の外の市中でも問題となっています。また、動物のもっている薬剤耐性菌が畜産物や農産物を介して人に広がったり、環境が汚染される場合もあることが分かってきました。
抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が増えると、これまでは適切に治療をすればよかった感染症の治療が難しくなってしまいます。重症化しやすくなり、死に至る可能性が高まります。
加えて新しい抗菌薬の開発は進んでいないため、薬剤耐性菌による感染症の治療はますます難しくなってきています。
これらの背景を踏まえて抗菌薬の適正使用が進められています。