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メールマガジン80号(2018年7月5日)

「ダニ媒介性脳炎」  北海道医師会

 ダニ媒介性脳炎は人獣共通感染症で、フラビウイルスに感染したマダニに咬まれたヒトが脳炎を発病します。ダニ媒介性脳炎の発生状況は毎年世界で5,000人から8,000人の患者が羅患しており、最近まで、日本での報告はなかったのですが、ダニ媒介性脳炎の患者が平成5年に1名、その後、平成28年に1名、平成29年に2名、平成30年に1名が北海道で発見されました。

 ダニ媒介性脳炎はヨーロッパ型、シベリア型と極東型の3種類あります。ヨーロッパ型の症状の重篤度は低く、致死率は1~2%、シベリア型はやや重篤な脳炎で致死率は2~3%、極東型は重篤度の高い脳炎で致死率は20~30%と極東型が重症になりやすく、北海道の5名の患者は極東型とされております。

 フラビウイルスの感染環について、ネズミやモグラなど病原巣動物となる小型野生哺乳類から幼ダニと若ダニは吸血によりウイルスを獲得します。ウイルスは経齢間伝達と経卵巣伝達によりダニの間で維持されています。ウイルスを持った成ダニや幼ダニの吸血を受けて、ヒト、家畜や野生哺乳類はウイルスに感染して、一部が発病します。

 ダニ媒介性脳炎の臨床症状はダニに咬まれて、7~14日の潜伏期間を経て、インフルエンザ様の発熱、嘔吐、頭痛、関節痛や筋肉痛の症状で始まり、重篤化すると複視、歩行障がい、麻痺、けいれん発作、精神錯乱や意識障がい等の脳炎症状から死亡に至ることがあります。もし助かったとしても後遺症として、約半数で知覚障がいや運動障がいを残します。ダニ媒介性脳炎の治療について、ウイルスに特異的な治療はないため、対症療法を行います。ワクチンによる予防は可能ですが、現在日本では認められておりませんので、ダニ媒介性脳炎の輸入ワクチンを必要時のみ行われております。

 ダニ媒介性脳炎の検査について、患者の血液や髄液より中和抗体や特異的免疫グロブリン抗体検査が可能になり、また、マダニよりウイルス分離が可能になり、診断ができるようになったため、以前は原因不明であった脳炎の診断が可能になりました。

 北海道の平成5年の1例目の患者は渡島保健所からの報告です。道南圏域で感染したと推定される、上磯町(現:北斗市)の30歳代女性が10月に39度台の高熱、頭痛、複視、歩行障がいやけいれん発作等の症状で発熱しました。4か月後軽快して退院しましたが、後遺症として麻痺が残りました。平成28年の2例目の患者は札幌市保健所からの報告です。海外、道外旅行歴はなく、感染した地域は札幌市近郊で7月にマダニに咬まれた40歳代の男性患者が10日後に38度台の発熱、関節痛と筋肉痛等の症状が出現し入院して、ステロイドパルスや免疫グロブリン療法等の様々な治療を行ったが、20日後に脳死になり、30日後に死亡しております。平成29年の3例目の患者は市立函館保健所からの報告です。道南圏域で感染したと推測される70歳代の男性が7月に発病して死亡しております。平成29年の4例目の患者は札幌市保健所からの報告です。地元の山に入ることが多く、マダニに咬まれ、2週間後に発熱と頭痛を訴え、2日後に意識障がいを認め入院した70歳代の男性は救命されましたが、重篤な高次脳機能障がいと片麻痺等の後遺症を残しました。平成30年の5例目の患者は旭川保健所からの報告です。5月中旬に道北の山林で山菜取りをしていてマダニに咬まれた40歳代の女性が発病して現在入院しております。以上、5例の患者は2名が死亡して、助かった2名は重篤な後遺症を残しました。

 ダニ媒介性脳炎の対策として、マダニは道内の森林や草原など野外に広く生息しており、その中には極東型フラビウイルスを獲得したマダニがおり、咬まれることにより感染して、発病する可能性があります。そのため、マダニに咬まれないようにすることが重要です。マダニの活動が活発になる春から秋にかけて森林や草原に山菜取りやキャンプなど出かける際はマダニに注意してください。衣服は長袖、長ズボン、足を完全に覆う長靴、帽子、手袋や首にタオルを巻くなど肌の露出を少なくしましょう。帰宅後、衣服にマダニが付いていないか、マダニに咬まれていないか確認してください。もし、マダニに咬まれていたときは、マダニの体部をつまんで引っ張ると、口器がちぎれて皮膚内に残ってしまう恐れがありますので、皮膚科等の医療機関で診察を受けてください。また、マダニに咬まれた後、1~2週間は発熱、頭痛や嘔吐などの症状に注意して、症状が出現した場合は、医療機関を受診して、いつ、どこで、どこをマダニに咬まれたかを医師に伝えてください。仕事などの関係で森林や草原で働き、ダニ媒介性脳炎の心配で予防接種を希望する方は保健所か札幌市立病院に相談してください。