2021年 4月 北海道医師会 「認知症の症状、治療そして予防」
令和03年04月01日
認知症とは
認知症とは、いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知機能障害があるために社会生活機能に影響を及ぼす状態とされています。つまり、生活に影響を及ぼすことが、認知症と診断するときのカギとなります。ここで言う認知機能とは、記憶、実行機能、言語、知覚・運動などを指します。
認知症の原因となる病気には、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症などがあります。この中で、アルツハイマー型認知症が最も多く、半数以上を占めています。今日は、アルツハイマー型認知症を中心にお話しします。
アルツハイマー型認知症の特徴的な症状は、まず記憶障害で、特に新しいことが記憶できなくなります。そのため、何度も聞き返すことが多くなります。また、空間をとらえる力、そして時間や日付の感覚が低下します。そのため、物をしまった場所がわからなくなって大事な物の紛失や捜し物が増えたり、徘徊をして迷子になることが多くなります。
アルツハイマー型認知症の診断では、まず経過や症状を十分に診察することが重要になります。また、CTやMRI等の画像診断や、血液検査を行うことがあります。これは、認知症の診断だけではなく、脳にほかの病気がないか、また、慢性硬膜下血腫や甲状腺機能低下症などの「治療可能な」認知症が隠れていないかを確かめる意味もあります。いずれにしても、今までなかった症状で「あれっ」と思ったら、かかりつけ医に相談したり、認知症の専門医の診察を受けることをお勧めします。
認知症の治療
一般的に、アルツハイマー型認知症などの認知症は一度発症すると進行する病気で、残念ながら治したり進行を止めることはできません。現在使われているアルツハイマー型認知症の主な治療薬は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬に分類されます。脳は、神経が集まっている組織で、アルツハイマー型認知症では、ゆっくりと神経の細胞が障害されます。一方、脳は、神経だけではなく、「神経伝達物質」と呼ばれる目には見えない物質が神経と神経を取り持っています。その一つがアセチルコリンです。つまり、障害を受けて減少した神経の細胞のはたらきを、アセチルコリンの量を維持することで補っているということになります。したがって、アルツハイマー型認知症の病気の進行を変えている訳ではありません。
では、アルツハイマー型認知症の進行を抑える治療はできないのでしょうか。アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドというタンパク質がたまることが原因とされており、これまでアミロイドがたまる過程をブロックしてアルツハイマー型認知症の進展を抑制する薬の開発がいくつも行われています。しかし、これまではすべての薬剤が重篤な副作用や効果不十分のために開発の中断を余儀なくされました。そのような中、昨年12月、欧米と共に日本においてアデュカヌマブという新薬の承認が申請されました。この薬は、アミロイドに直接結合して除去する働きを持っています。世界で初めての、病気そのものの進行を抑制する薬剤になるか期待されています。
認知症の予防
認知症の根本治療は難しいということをお話ししてきましたが、認知症はある程度予防が可能であることがわかっています。ある報告では、認知症の約35%が予防可能とされています。認知症の社会的費用は、わが国で年間約14.5兆円という試算もあり、社会全体の大きな問題です。そして、認知症になることで、本人の生活の質も大幅に低下することも明らかです。このような意味で、今後認知症の予防は非常に重要であると考えられます。
これまで、認知症の危険因子や抑制因子については様々な報告がなされてきましたが、その中で一貫して効果が認められているのが運動、中でも有酸素運動です。具体的には、最大心拍数の60~90%の強度で、1回に20~60分、週に3~5回の有酸素運動を行うことが推奨されています。運動強度の目安として、おしゃべりテストと呼ばれる方法では、2人でおしゃべりをしながらウォーキングを行い、徐々にスピードを上げて、これ以上はおしゃべりをしながら歩けない、という速度がもっとも推奨されるとしています。
また、生活習慣病に対応することが、認知症の予防や進展抑制に有効であることがわかっています。例えば糖尿病になるとアルツハイマー病のリスクが2倍以上になるとされています。また、高血圧、糖尿病、高脂血症などの血管を傷害する因子を治療しないで放置すると、認知機能の障害の進行が加速することもわかってきました。生活習慣病の予防と治療は積極的に行うことが大切です。
認知症は、運動の習慣や危険因子の除去によりかなりの部分が予防可能です。健康な社会を目指して、さあ、今日から始めましょう!
(常任理事 荒木 啓伸)
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