平成30年06月01日
食後に眠くなる原因はまだよくわかっておらずいくつか説があります。今のところもっとも有力な説が3つほどありますのでご紹介します。
一つ目は、グルコーススパイクのお話です。食事で摂るブドウ糖の量が多いと、グルコーススパイクと呼ばれる急激な血糖上昇が起こります。それに反応して大量にインスリンが分泌され、その結果、血糖値が急激に下がることで、頭がぼーっとしたり眠くなったりするというものです。逆に、摂取するブドウ糖の量がそれほど多くなければ、血糖値の上昇は緩やかになり、インスリンの分泌量も相応になるためブドウ糖不足になりにくくなります。血糖値が上がりにくい食事内容にしたり、ゆっくり食べたりすることで、眠気対策になるかもしれません。
二つ目は、自律神経のお話です。食後に消化管の動きが促進されると、副交感神経が交感神経より優位になることで、身体がリラックスモードになり眠気が生じるというものです。
三つ目はオレキシンのお話です。オレキシンは特定のニューロン(神経)から分泌される神経ペプチドです。オレキシン作動ニューロンは全身の栄養状態をモニターし、血糖値が高くなるとこの神経活動がオフになり、オレキシンが分泌されず眠気が襲ってくるというものです。逆に血糖値が低いと、その神経がオンになり覚醒モードになります。
ちなみに、生体ホルモンであるオレキシンのことがわかったのはごく最近です。1998 年に日本人によって発見されたオレキシンは、当初は摂食を制御すると考えられていましたが,その後オレキシン欠如がナルコレプシー(※)を引き起こすことが発見されて睡眠と覚醒の調節に決定的な役割を持っていることが明らかになりました。近年、オレキシンが作用する「オレキシン作動ニューロン」のはたらきが明らかにされ、この神経に作用する睡眠薬も開発されました。この薬の成分(一般名;スボレキサント)はオレキシン受容体に結合し、その作用をブロックすることで眠気を誘います。現在、ベンゾジアゼピン受容体に作用する睡眠薬が主流ですが、依存性が問題となることがネックでした。スボレキサントは、依存に関する報告が少ないのが特徴で、初めて睡眠薬を試す方に適しているといわれています。
このようにオレキシンやオレキシン作動ニューロンのはたらきによって、私たちの睡眠/覚醒がコントロールされているのです。
野生動物はエネルギーが枯渇すると、寝ている場合ではありません。動き回ってエサを探さなくてはならなくなります。飽食である現代人は必要以上にエネルギーとなる糖質を摂りすぎているのかもしれません。大切であるはずの「睡眠」が、さまざまな体の仕組みによって、社会ではたらくサラリーマンにとってはやっかいな昼間の「眠気」となっているのかもしれません。
※ナルコレプシー:本人の意志とは関係なく、また場所や状況を選ばずどのような場面でも突然眠気の発作に襲われて眠り込んでしまうのが特徴で、オレキシンが欠乏することによって起こる病気のこと。