2024年10月 北海道医師会 「肝がんの予防のために一度血液検査を受けましょう」
肝がんとは
肝がんは、一度かかると治療しても再発することが多く、生命に直接関わる重篤な病気です。2019年には我が国では2万5千人以上が肝がんで亡くなっています。肝がんの原因は大部分が肝炎ウイルス、特にC型肝炎ウイルスとB型肝炎ウイルスの持続感染です。私が医師になった20年ほど前は、慢性肝炎に対する効果的な治療がほとんどなく、C型肝炎の患者さんの多くが肝がんへと進展していました。しかし、これらの肝炎ウイルスを排除ないし制御できる治療が進歩して、ウイルス性肝疾患を背景とする肝がんは減少しています。以前は不治の病だった慢性肝炎が、今や治せる病気になったのです。肝炎ウイルスに感染しているかどうかは、1回の血液検査でわかります。今回の健康コラムでは、ウイルス性肝炎の治療と肝がんの予防についてお話しします。
C型肝炎とその治療
C型肝炎は無治療で経過すると、肝硬変を引き起こし、肝がんが発生する危険性が高まります。C型肝炎は、血液を介して感染しますが、感染しても症状がほとんどなく、大部分の方がそのまま持続感染します。1992年にインターフェロンの注射による治療が開始されましたが、体内からウイルスを排除できる割合は10%程度でした。2011年から、ウイルスの増殖を直接抑制する直接型抗ウイルス薬が登場し、ウイルスの排除率が格段に向上しました。現在は、何種類かの飲み薬を組み合わせるか、複数の抗ウイルス薬の配合錠を12〜16週内服することで90%前後の患者さんでウイルスを排除できるようになりました。C型肝炎は肝がんに進展する不治の病から、治せる病気になったのです。
B型肝炎の特徴
B型肝炎ウイルスに感染すると、急性肝炎を発症し、ほとんど症状のない人もいますが、全身のだるさや食欲不振を認めることもあります。全体では、B型急性肝炎の患者さんのうち慢性肝炎に移行する割合は10%以下ですが、年齢が低い場合、特に乳児の場合は慢性肝炎 に移行する割合が高くなります。B型肝炎は血液を介して感染するほか、母子感染も問題となります。B型肝炎の場合、肝硬変からだけではなく、慢性肝炎の状態から肝がんを発症することがあります。慢性肝炎の患者さんのすべてが治療の対象になるわけではありませんが、肝機能障害がある患者さんや、血中のウイルス量の多い患者さんが治療の対象になります。
B型肝炎の治療
1986年にB型慢性肝炎に対するインターフェロンの注射による治療が可能になりましたが、その効果は一時的なものでした。その後、インターフェロンの治療期間が延長されましたが、依然として効果は不安定でした。2000年から、ウイルスの増殖を直接阻害する飲み薬(核酸アナログ)が使用可能になり、その後何種類かの核酸アナログが開発され、使用可能になっています。核酸アナログは、ウイルスのタイプや年齢などによらず、ほとんどの症例でウイルスに対する作用を発揮し、肝炎を沈静化することができ、肝がんの発生を抑えることが期待できます。一方、ウイルスを完全に排除するものではないため、肝炎の沈静化の持続のためには、長期間の投与が必要になります。現在、新たな作用機序の抗ウイルス薬の開発が多数進められており、今後に期待されます。また、B型肝炎の妊婦から生まれたこどもは、母子感染の可能性があります。母子感染の予防のために、B型肝炎ワクチンを生後3回、B型肝炎グロブリンを1回注射します。これにより9割以上の母子感染が予防できます。これらの治療により、B型肝炎ウイルスによる肝がんの発生も抑制できる時代になったと言えるでしょう。
肝がんの予防のために一度血液検査を受けましょう
肝炎ウイルスに感染しているかどうかは、1回の血液検査でわかります。今までに検査を受けたことがない方は、是非一度血液検査を受けてください。肝炎ウイルスに感染していても、自覚症状はほとんどなく、気づかないうちに肝硬変や肝がんを発症する危険があります。そして、繰り返しになりますが、近年のウイルス性肝炎の治療の進歩により、肝がんは予防できるようになりました。もし、肝炎ウイルスに感染していることがわかったら、肝臓の専門医療機関を受診してください。肝炎ウイルス検査は、感染症予防法による「特定感染症検査等事業」や、健康増進法に基づく「健康増進事業」により、無料で受けられる場合もありますので、各自治体や保健所にお問い合わせください。また、「肝ナビ」のウェブサイトから、肝炎ウイルス検査が可能な医療機関を検索することができます。さあ、検査に出かけましょう。
(常任理事 荒木 啓伸)