皆さんはポリファーマシーという言葉をご存じでしょうか。
知らないという方もいらっしゃると思うのですが、ポリファーマシーとは、「多剤併用の中で害を及ぼすもの」の事をいいます。
多剤併用と言っても、明確に「何種類以上服用していると多剤併用」というような定義はありません。薬物による有害事象発現に関しては『高齢者の安全な薬物ガイドライン』でも「6種類以上で薬物有害事象の発現のリスクが特に増加する」「5種類以上で転倒の発生率が高かった」などの報告がありました。ですが、治療上6種類以上の薬剤が必要となる場合もありますし、6種類以下でも有害事象が発現する場合もあるため、数だけではなく、その中身も重要となります。
では、ポリファーマシーの問題点とは何でしょうか。それは「薬物による有害事象発現頻度の増大」「残薬の増加」「薬剤費の増大に伴う医療費の高騰」などがあげられますが、本コラムでは「薬物による有害事象発現頻度の増大」について述べます。
ここで一つ注意していただきたいのは、世間でよく使われる「副作用」と「薬物有害事象」は少し意味合いが異なる点です。
・副作用とは、「薬の使用により生じた、薬との関連を否定できない有害な反応」
・薬物有害事象とは、「薬の使用後に発生する有害な症状で、薬との関連を問わない事象」
です。そのため、先ほどの6種類以上飲むことによる薬物有害事象とは、現在服用しているお薬の副作用として、知られていないような有害な事象が起こる可能性もあるということです。
現在、日本の高齢者は様々な疾患を抱えていることも多く、複数の医療機関を受診される方が多くいらっしゃいます。その際、一つの医療機関では2~3種類のお薬しか処方されていなくても、受診する医療機関が増えることにより、飲んでいるお薬の種類も増えていくこととなり、その結果として、処方している医療機関も気が付かないままポリファーマシーの状況を作ってしまっていることもあります。
そのような事を防ぐために役に立つのが、お薬手帳やマイナンバーカードの健康保険証利用と、かかりつけの薬局をもつことです。お薬手帳に関しては、最近では、ほとんどの薬局で活用されており、初めてその薬局を利用される方でも、薬剤師がお薬手帳を確認することにより、普段どのような薬を服用しているかが分かり、先ほどのポリファーマシーの予防、薬の飲み合わせなどをチェックすることができます。
しかし、中にはお薬手帳を医療機関ごとに分けて使用される方がいらっしゃいますが、これではお薬手帳の本来の役目を十分に果たせていません。今どのようなお薬を服用しており、他の薬局でもらったお薬と同じ薬はないか、飲み合わせに問題はないか等の情報を知るために必要なものとなりますので、手帳を分けて使ってしまうと大事な情報に気が付けないことにもなりかねません。そしてかかりつけの薬局を持つことで、複数の医療機関から処方が出ていても、1つの薬局を継続して利用していれば、定期的に服用しているお薬をきちんと把握し、不要な薬などをチェックすることができ、副作用や有害事象を未然に防ぐことが出来ます。
一番大切なのは、飲んでいるお薬の数ではなく、本当にそのお薬が必要かどうかという点です。ただたくさんのお薬を飲めば大丈夫というわけではなく、必要なお薬を必要なタイミングで服用することが、自分の健康を守ることになります。とはいえ、どのお薬が本当に必要なお薬か自分では判断できない方がほとんどだと思います。その時は、是非かかりつけの薬局・薬剤師に相談してみてください。