2021年10月 北海道医師会 「新型コロナウイルスワクチンについて」
令和03年10月04日
昨年10月「新型コロナウイルスについて」のテーマで本誌に掲載させていただきました。その後の新型コロナウイルスの流行状況、臨床像や変異株等と主にワクチンについて報告します。
新型コロナウイルスの流行状況
新型コロナウイルス感染は今年の正月に第3波、ゴールデンウィークに第4波、夏休みに第5波の流行がありました。北海道の新型コロナウイルス感染症の流行状況について、第3波は中国で発生した新型コロナウイルス従来株により、1月9日に感染者が最大215名になりました。第4波はイギリスで発生したアルファ株により、5月21日に最大727名を記録しております。第5波はインドで発生したデルタ株により、8月18日に最大595名となりました。新型コロナウイルス従来株は高齢者が多く感染し重症化して死亡する方が多く、子どもの感染は少なく軽症で済むとされておりました。第5波の流行では変異株のデルタ株が優勢になり、子どもの感染が見られ集団感染も発生して、若年者の重症化が見られます。高齢者はワクチン接種が進み感染者は減少し、重症化して死亡する人数も減少しました。
新型コロナウイルスの臨床像
新型コロナウイルスの潜伏期間は主に5日程度です。患者と接触し感染しても無症状のまま経過する人は30%程度おります。有症状者の臨床像は、発熱、咳、のどの痛み、頭痛、倦怠感や臭いがしない、味がおかしい等の軽い症状のみで軽快する人が約80%おります。軽い症状が7~10日続き、咳が止まらない、呼吸困難が加わり酸素投与が必要な肺炎に進行する人は約20%おります。さらに重篤になり人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)等を使用して集中治療室で治療する人は約5%おり、2~3%が致命的です。重症化せずに軽症で済んだ人が、2~3週経過後も咳や倦怠感等の症状が持続して元の状態に戻れない事例が約35%程度あります。合併症として、呼吸器系では急性呼吸窮迫症候群があり呼吸困難が続きます。心血管系では不整脈、心筋炎と心膜炎があります。血栓塞栓症として、肺血栓塞栓症、脳梗塞、心筋梗塞と深部静脈血栓症等があります。炎症性合併症としてギランバレー症候群や多系統炎症性症候群や脱毛症等があります。
新型コロナウイルスワクチン
現在使用している新型コロナウイルスワクチンは、ファイザー社とモデルナ社のワクチンが主体で、いずれもメッセンジャーRNA(m-RNA)ワクチンです。新型コロナウイルスワクチンを2回接種することにより抗体が産生され発症が予防されます。ファイザー社は95%、モデルナ社は94%の有効性が認められており、一般的に行われているインフルエンザワクチンの60%の有効性に比べて高くなっております。北海道の新型コロナウイルスワクチン接種は2月より国立と公的医療機関の従業員から開始され、一般の医療機関従業員、高齢者、基礎疾患のある者に行い、順次年齢を下げ若年者まで12歳以上の全員に行うことになっております。新型コロナウイルス感染症の第4波の時期は、医療機関従業員と高齢者と基礎疾患のある者の一部が2回の接種が済んでいました。医療機関や高齢者の集団感染は少し減少しましたが、アルファ株の強い感染力と重症化しやすい点より、感染者数は最高の数字となりました。第5波の時期は高齢者の2回の接種がほとんど終了しております。第5波はデルタ株の流行のため若年者も重症化し易く、感染者は高齢者が少なく、若年者が多く発症していました。
m-RNAワクチンの作用機序を次に示します。m-RNAワクチンは新型コロナウイルス表面のスパイクタンパク抗原の鋳型であり、ポリエチレングリコール(PEG)の脂質の膜に包まれています。m-RNAワクチンを筋肉注射すると、脂質の膜に包まれたm-RNAが細胞内に取り込まれます。細胞内に取り込まれたm-RNAは細胞質内で鋳型となり、リボゾームがウイルス抗原を産生します。ウイルス抗原は細胞内から放出されます。ウイルス抗原に対して抗体産生する液性免疫とT細胞による細胞性免疫の免疫応答が確立します。細胞内に導入されたm-RNAは自然に分解され、人の遺伝子には組み込まれませんので安全です。
ワクチンのメリットは抗体産生により感染し難い、重症化し難く、他の人に移しにくくなる点です。デメリットは注射の部位の痛み、発赤、腫脹の他、人により程度の違いはありますが、発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、下痢、倦怠感等の副反応の症状がワクチン接種後数日間認めることがありますが、ほとんど自然に消失します。ワクチン接種直後にショック、アナフィラキシーが認められることがあります。その場合は緊急処置がとれる体制があります。ワクチン接種のメリットとデメリットを理解して多くの方がワクチンを受け感染対策を取りましょう。
(常任理事 三戸和昭)
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