令和03年02月01日
歳を重ねるにつれて、高血圧や糖尿病、神経痛、不眠・・・など体の不調が増えてきて、自ずと服用する薬剤も増加する傾向にあります。
一方、高齢者は加齢に伴う生理的な変化によって薬物の動態や反応性が一般成人と異なり、結果として薬剤同士の相互作用が起こりやすく、こうした問題に対処するため、厚生労働省では平成29年4月に「高齢者医薬品適正使用検討会」を設置し、高齢者の薬物療法の安全対策を推進すべく調査・検討を行い、平成30年5月に医療従事者向けに「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」を取りまとめております。
なお、厚生労働省が指針を取りまとめたのは、高齢者の薬物療法の安全対策を目的としたものですが、別な視点から見ると多数の薬剤が処方されることは、国民医療費の増加にも繋がるといった問題もあり、平成30年度に医療機関に支払われた概算医療費は、前年度より3,000億円増えて42兆6000億円となりました。国民医療費のうち大きな割合を占めている調剤医療費に関しては、ポリファーマシーと関連があると考えられています。
ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことをいうのではなく、それに関連した薬物有害事象のリスク増加や服薬過誤等に繋がるものをいい、何剤からポリファーマシーとするか厳密な定義はありませんが、薬物有害事象は薬剤数にほぼ比例して増加することが報告されています。
高齢者の薬剤の処方状況を見ると75歳以上の24.8%が7種類以上、41.1%が5種類以上の薬剤が処方されています。
こうしたポリファーマシーの問題の解決策として、1つは「お薬手帳」の活用があげられます。
かかりつけ薬剤師による一元的管理が進められていますが、いまだに複数の薬局を利用する患者も少なくないため、多剤併用による重複投薬や相互作用を未然に防止するための方法として「お薬手帳」が期待されます。
2つ目の解決策として減薬があげられます。ポリファーマシーの問題は、薬剤数の増加に比例して有害事象の発生が増えることが分かっているので、減薬は有害事象の抑制に効果があります。このため、2016年の診療報酬改定において減薬に対する取り組みが評価されるようになり、6種類以上の薬剤が処方された患者に処方内容を総合的に評価及び調整し、2種類以上減薬した場合に算定が認められています。
ポリファーマシーと同時に薬剤の飲み残しである「残薬」も大きな問題となっています。
以前、日本薬剤師会が実施した調査では、在宅患者812人のうち4割以上に薬剤の飲み残しや飲み忘れがあったことが報告されています。
残薬は、医師の処方どおりに薬剤が服用されていないため、期待される治療効果が十分に発揮されないばかりでなく医療費の無駄にもつながります。
ポリファーマシーの問題を解決するためには、前述の対策を講じる必要があり、患者の病態だけでなく治療状況や生活環境なども把握することが求められ、このようなことを実践するためには、患者との信頼関係の構築が重要となることから、日ごろから「患者とのコミュニケーション」に心掛ける必要があります。高齢者への適切な薬物療法や薬物有害事象の未然防止のため、ポリファーマシーの問題を解決するための取り組みにご理解・ご協力をお願いいたします。