2019年10月 北海道医師会 「高齢者の転倒と骨折」
令和01年10月01日
日本人の寿命はさらに伸びて平成30年簡易生命表によると平均寿命は男性81.25歳、女性87.32歳と高齢化が顕著になっています。若い頃と違って年をとってくると筋肉量が減少(サルコペニア)し、脚、腰の踏んばりが弱くなり、体のバランスをとるのが悪くなります。
精神的にも抑うつ状態になったり、摂食状態の低下とともに低栄養、虚弱状態(フレイル)となります。さらに加齢とともに荷重関節の変形性関節症が増えてきて特に歩行時の膝関節痛により歩行能力の低下(ロコモティブシンドローム)が顕著になってきます。
これらの要因が重なって簡単に転倒、骨折を生じてしまいますが、さらに年とともに骨粗鬆症が著明となり、転倒していないのに重くもない荷物を持って背骨がつぶれたりします。高齢になってくると高血圧症になる方も多く、降圧剤を飲んでいて、夜中にトイレに起きたりすると時々起立性低血圧状態になり、転倒、骨折することも生じます。不眠症で睡眠剤を飲んで寝る方も多いと思いますが、トイレに起きる時にふらふらして転倒することも多くなります。高齢で認知症の方も増えていますが、段差や危険に対する認識が悪く、よく転倒し骨折を生じます。
高齢者はあまり外出しませんので、骨折の多くは室内で生じます。一方で骨自体は骨粗鬆症となっている事も多く、特に女性は男性より10歳早く骨粗鬆症ががはじまり、男性より長生きしますので、高齢での骨折は男性の2倍多く発生します。
骨折部位としては、大腿骨頚部骨折が一番問題となります。股のつけ根の骨折が一番寝たきりになりやすい骨折です。心臓疾患などの合併症で手術ができず、保存的に治すこともありますが、骨折する前まで元気に歩いていた方には100歳でも折れたところを金属で止めたり、人工骨顕置換術を行うこともあります。
次に問題となるのが、脊椎圧迫骨折です。骨粗鬆症が著明だと尻もちをついたり、重い物を持ったぐらいでも背骨がつぶれたりします。動く事ができないような状態の時は入院して、硬性コルセットを装用したり、つぶれた椎体に対し経皮的椎体形成術をする場合もあります。つぶれた骨によって脊髄神経が圧迫されているときは手術により圧迫をとり除き椎体固定をする事も必要です。
手をついて転んだ時は手首の近くの骨が折れます。橈骨遠位端骨折で冬道では若い人でも多くの人が折ってきます。骨折部が粉砕してたり、折れてずれているのを徒手整復してもうまくいかない時には、観血的に手術をします。一般的にこの骨折の多くは保存的治療で治ります。
肩から転倒したりすると上腕骨近位部骨折を生じます。肩の部位の骨折ですが、骨折部のずれが少ない場合はバンドと三角布で固定して保存的に遅漏します。粉砕したり、ずれが大きい場合は観血的に手術が必要です。
高齢者に多い4か所の骨折について述べましたが、骨折をして寝たきりにならないためには、少し元気なうちから予防することが大切です。骨粗鬆症にならないように日頃からカルシウム不足にならないように食事に気をつけること。筋力が落ちてサルコペニアにならないように蛋白質を多めに摂取する。高齢者には特に大豆蛋白がおすすめです。筋力の衰えは脚から来ますので、転倒しないようにして少しでも屋外へ出て散歩することが大事です。高齢者は夜中のトイレの回数が多いので自室とトイレ間に障害となるものが無いよう気を配り、室段差が無いようにして転倒を防ぐことが大切です。
(副会長 深澤 雅則)
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