2017年12月 北海道薬剤師会 「ヒルドイド 美容目的を避け適正な使用を」
平成29年12月01日
「ヒルドイドは高額な美容クリームより効果がある」と女性間に広がり、化粧品を購入する感覚で病院を訪れ、乾燥肌などと訴えて処方を受けるケースがニュースにもなりました。本来、この薬は、アトピー性皮膚炎などの治療に使う医療用保湿剤であり、美容効果があるわけではありません。ヒルドイドはマルホ(大阪市)が製造販売する医療用医薬品の名称で、保湿薬の一種ですが、保湿のほか、血行を促進する作用があり、アトピー性皮膚炎ややけど、加齢や糖尿病による皮膚の乾燥などの治療に使用されます。乳幼児の場合、おむつかぶれや発疹で処方されることもあります。処方には医師の診断が必要で、後発医薬品も複数あります。
医薬品である限りは副作用もまったく起こらないわけではありません。しかし雑誌やインターネットで「美肌になれる」などと紹介されたり、中には、乾燥肌を予防することができる方法や医師から処方してもらうためのアドバイス等も書かれていたりするページも見受けられます。販売元のマルホ(大阪市)は、美容目的での推奨がないか定期的に雑誌やネットをチェックし、発見した場合には削除や訂正を要請しています。
健康保険組合連合会(健保連)の調査では、このような保湿用塗り薬の医療機関での処方が急増していることが分かっています。2015年10月から2016年9月の1年間のデータでは、女性は男性の4.2倍の処方件数があり、増加率は男性が7.9%であるのに対し女性では17.3%増えていました。多くは病名が「皮膚の乾燥」のみで、健保連では「美容目的の使用が増えていると考えられる」と分析しています。また健保連の推計では、ヒルドイドを中心とした保湿薬の単独処方による薬剤費は、公的医療保険全体で年間約93億円とみています。
治療以外でこうした処方は薬剤費を押し上げ、税金や保険料で賄う医療財政を圧迫します。厚生労働省は2018年4月の診療報酬改定で処方量の制限など対策を講じる方針を固めました。中央社会保険医療協議会(中医協、厚労相の諮問機関)で議論も始まっています。
医療用医薬品が保険から外れたケースは過去にもあります。国は、市販薬と成分や効能の似た医療用医薬品の保険適用の見直しを以前より進めており、2012年度の診療報酬改定ではビタミン薬を単なる栄養補給目的での処方は保険外とするように改めました。2014年4月から、うがい薬を単独処方した場合は保険適応から外れるようになりました。2016年4月からは、1処方につき湿布薬は70枚が限度とされています。
保険から外れたそれらの薬を、真に必要としている患者さんも実際にいることはわかっています。しかし、その一方で国の医療費の増加には、さまざまな理由があることがわかっています。一つは高齢化問題。加齢とともに抱える疾患は増えていく傾向にあります。他には、医療の高度化があります。10年前は治らなかったのに今は完治可能な病気は少なくありません。その背景には高度な医療技術の開発があるのですが、技術開発には莫大な費用がかかりますし、出来上がった薬剤費も高額なものが増えています。そこで、2年に1回の見直しで、医療費が削減できる方向に進んでいくような改定が行われています。代表的な例では ①医薬品の公定価格である薬価の引き下げ ②後発医薬品(ジェネリック医薬品)の推進 ③無駄な検査や治療をなくすための条件の厳格化 などがあります。日本は、国民皆保険制度です。多くの方は3割~2割の負担で医療を受けることができます。残りの医療費は国や自治体が負担しています。みなさんが普段から納めている保険料や税金を利用して国民皆保険制度は成り立っているのです。この国民皆保険制度を始めとする日本の医療制度は世界でも類を見ない素晴らしいものです。これからも一人ひとりが適正な使用を意識することが大切であると考えます。
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