第17回:口腔機能低下症について
令和05年11月01日
口腔機能低下症について
従来の歯科的な問題と言えば、虫歯による機能的形態の喪失や、それに続発する歯そのものの喪失などの器質的障害が多かった。そのため歯科治療と言えば、形態回復であり、それが機能回復につながっていた。
しかしながら、超高齢社会を迎えた我が国では、疾病構造の変化が起こっている。その代表的なものの一つに口腔機能低下症がある。
口腔機能低下症とは、加齢だけでなく、疾患や障害など様々な要因によって、口腔の機能が低下している状態を指す。この状態を放置していると咀嚼障害、摂食嚥下障害など口腔の機能障害をきたし、低栄養やフレイル、サルコペニアを進展させるなど全身の健康を損なうことになる。
具体的には、口腔内の微生物の増加、口腔乾燥、咬合力の低下、舌や口唇の運動機能の低下、舌の筋力低下,咀嚼や嚥下機能の低下などが挙げられる。さらに厄介なことは、これらが単独ではなく、それぞれが複雑に絡み合い、複合的な機能低下を引き起こしている点である。そのため、口腔機能低下症の検査・診断は重要となる。個々の検査や診断については、専門的であるため、ここでは割愛し、管理の概要について解説する。口腔機能低下症の管理は、口腔機能のさらなる悪化を予防し、口腔機能を維持、回復することを目的としている。管理ごとに、栄養状態や口腔機能が維持・回復しているかの評価を臨床的観点から行う。管理計画策定後は、全身状態や生活環境・生活習慣を踏まえた生活指導や実施可能な簡単な口腔機能訓練を含めたセルフケアの指導と助言を行う。また、個々の日常生活レベルにあわせて、適切な口腔清掃指導、日々の食事において摂取する食品や食形態の提案、食具や姿勢などの食事環境、食事方法などの生活指導を行う。そのため、歯科医療従事者だけではなく、多職種連携による口腔機能管理が重要となる。医師、看護師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護支援専門員など医療・保健・介護・福祉における多職種と連携を取りながら口腔機能管理を進めていくことになる。口腔機能低下症という言葉自体はまだ一般的には、広く知られているとは言えない状況である。
しかしながら、現状を鑑みると、今後、口腔機能低下症は社会問題化していく可能性が高い。そのため、我々歯科医療従事者は、この口腔機能低下症についての知識や対処法を熟知し、できるだけ多くの患者さんにこのことを伝えていかなければならないと考えている。
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