第12回:いわゆる「口内炎」について
令和03年05月11日
口腔粘膜は重層扁平上皮といわれる組織から構成されていますが、形態的に皮膚と異なり、舌や歯肉の一部を除き角化を伴わないこと、分化が早く病変の発現が皮膚よりも早いこと、また病巣発現に関与する血流量の変化は粘膜を介して、いち早く色調などの変化として捉えやすいため、全身症状に先んじて口腔に症状を認める場合も多くあります。口腔は直視直達が可能ですが、外来性、内在性の刺激をうけやすく、病状が流動的で修飾をうけやすく、診断が難しいのもあわせもつ特徴ですが口腔領域の診察を契機に全身疾患の診断がつくことも稀ではありません。今回は、口腔内にびらんや潰瘍形成をきたす「口内炎」について解説したいと思います。
「口内炎」という用語は口腔粘膜全体の炎症を意味し、正確な用語ではありません。私達が日常的によく経験する(写真1)のような「口内炎」は、正しくは「アフタ性口内炎」と診断されます。アフタ性口内炎とは、直径数mmの類円形の小潰瘍で、潰瘍面はフィブリンによる白い偽膜に覆われ、その周囲に紅暈と呼ばれる発赤を伴い、しばしば疼痛を伴うのが特徴です。アフタ性口内炎の多くは、1週間から10日ほどで自然治癒しますが、症状が強い場合、レーザーやステロイド軟膏の塗布などの治療がなされます。原因不明で、しばしば再発するものは慢性再発性アフタといわれます。
口腔内にびらんや潰瘍などの「口内炎」を生じる原因として主に、不適合な義歯の刺激や誤咬など外傷によるもの、ヘルペスウイルスやエンテロウイルスなどのウイルス感染によるもの、ベーチェット病や天疱瘡、類天疱瘡などの全身疾患に起因するものなどがあります。
重篤なアフタ性口内炎を生じる疾患として、ウイルスによるものでは帯状疱疹が挙げられます、帯状疱疹は高齢者やステロイドや免疫抑制剤などの投与を受けている患者さんにしばしば見られ、神経の走行に沿って帯状に赤い発疹が発生し、水疱ができるのが特徴です。口腔に生じたものでは水疱がつぶれてアフタ性口内炎を形成し、疼痛を伴うとともに、歯の動揺や脱落、顔面神経麻痺などを合併することもあります。(写真2)
ベーチェット(Behcet)病は口腔粘膜のアフタ性潰瘍(写真3)、外陰部潰瘍、皮膚症状(結節性紅斑様皮疹)、眼症状(網膜ぶどう膜炎や虹彩毛様体炎が起こり、失明に至ることもあります)の4つを主症状とする慢性再発性全身性炎症性疾患です。4つの症状が伴わない不全型ベーチェット病も多くみられるため、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍はほぼ必発のため、診断にあたって重要な所見となります。
写真3(口腔内写真により閲覧注意)
薬物の副作用で「口内炎」が生じることも珍しいことではなく、抗がん剤投与の副作用としての口内炎はよく知られていますが、それ以外にも高血圧の治療薬であるニコランジル、リウマチの治療薬であるメトトレキサートなどよる「口内炎」はしばしばみられます。
皆様もくりかえす口内炎、なかなか治らない(2週間以上治癒しない)口内炎でお悩みであれば、一度歯科医院で相談されてみてはいかがでしょうか。
佐賀県歯科医師会 地域保健部
地域保健委員会 副委員長 古賀 真
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