第10回:喫煙と口腔内の病気の関係性について
令和02年05月11日
喫煙と口腔内の病気の関係性について
令和2年4月1日より、健康増進法の一部を改正する法律が成立しました。この法律は、受動喫煙を防止するためのもので、受動喫煙防止のための取り組みが、マナーからルールに変わったことになります。具体的には、住宅や旅館、ホテルの客室を除くすべての施設や公共交通機関が対象に施設内が禁煙になり、学校や病院、行政機関は敷地全体を禁煙とし、受動喫煙の起きない屋外の決められた場所でしか喫煙できなくなるというものです。
以前のコラム(第7回)でも取り上げた内容ではありますが、今回の法改正を機に、喫煙についてもう少し掘り下げてお話しできたらと思います。
喫煙が体に良くないということは言うまでもなく、誰もが知っている事だと思います。
喫煙が全身に及ぼす問題点は色々言われていますが、その多くは体の中で起こっている事なので、明らかな病気にならない限り自覚する事は難しいのですが、口の中は誰でもタバコの影響を直接確認できる場所になります。タバコの煙の中には約200種類の有害物質、約70種類もの発がん性物質が含まれているという話もあります。口の中でも特に舌の下の口腔底と呼ばれる部分は粘膜が薄く、様々な化学物質が透過して、体に吸収されやすい部分になります。
口腔内の喫煙による影響の大きな病気は以下になります。
口腔癌
発生部位 1位:舌、2位:歯肉、3位:口腔底、4位:頬粘膜、5位:硬口蓋、6位:口唇
上記のように、一言で口の中といっても様々な場所に癌ができます。どの部位でも喫煙者は非喫煙者と比較して、癌になる確率は高くなりますが、できる場所によって約2.5倍から大きいところで約21倍、癌になってしまう確率が高くなってしまいます。喫煙と飲酒が加わるとさらに癌になる確率が上がり、喫煙しない事、飲酒量を控える事が口の中の癌の予防に重要になります。
歯周病
歯周病になると、歯肉が腫れたり歯を磨く時に出血したりという目に見える症状が出るのが一般的です。しかし、タバコのニコチンの影響で、歯肉の中の毛細血管が細くなり、血流が悪くなることによって、本来腫れているはずの歯肉が引き締まって見えることにより、歯周病が無いように見えてしまいます。歯周病とは歯肉の腫れだけではなく、その下の骨が溶けてしまっている状態です。つまり、一見歯周病が無いように見える方でも実はレントゲンを撮ると骨が溶けてしまっていたり、歯が揺れてきてしまうということになります。適切に歯周病の治療を行っても、いい結果が得られにくいことも問題としてあり、 喫煙しない事が、歯周病の予防にも治療にも重要な要因になります。
禁煙の効果について
禁煙することで、様々な病気に対する危険性が下がっていくことも、研究の結果わかっています。「歯周病のかかりやすさ」は4割も減ります。手術後の治療経過も禁煙者は非喫煙者とほとんど差がなくなります。
ちなみに他の病気でも、肺癌にかかる危険は喫煙者では非喫煙者の4.5倍ですが、禁煙すると4年で2.0倍、5年で1.6倍、10年で1.4倍と着実に落ち着いてきます。
健康意識が高まっている昨今で、体にいい食事をして、健康のために運動をする一方で、ストレス解消で喫煙をしていては、元も子もありません。かくいう筆者も長年喫煙をしていましたが8年前に完全に禁煙しました。禁煙することに「もう遅い」はありません。日本人の平均寿命が延びる一方で、平均寿命と健康寿命の差は開いてきています。人生の終盤で日常生活が制限される「不健康な期間」を減らし、健康寿命を延ばすためにも、現在喫煙されている方は禁煙を、自分は喫煙していないが身近な人が喫煙していたら、角が立たないように上手に禁煙を勧めてみてはどうでしょうか?
佐賀県歯科医師会 地域保健部
成人産業委員会 副委員長 藤原和由
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