第26回 訪問歯科における口腔ケアの役割

第26回
訪問歯科における口腔ケアの役割
近年、日本の高齢化が進む中で、訪問歯科診療の重要性がますます高まっています。
特に、要介護者や寝たきりの高齢者にとっては、定期的な歯科受診が困難であり、口腔ケアが十分に行われないことが健康状態の悪化につながることもあります。ここでは、訪問歯科における口腔ケアの役割について詳しく解説します。
1. 口腔ケアの役割
口腔ケアは単なる「歯磨き」にとどまらず、口の中を清潔に保つことで、全身の健康を維持するために重要な役割を果たします。
1-1誤嚥性肺炎の予防 口腔内の細菌が気道へ侵入することで誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。定期的な口腔ケアにより、細菌の増殖を抑え、誤嚥リスクを軽減できます。
1-2栄養状態の改善
口の中が不衛生だと食事がしづらくなり、食欲の低下を招きます。適切な口腔ケアを行うことで、食事を楽しみ、必要な栄養を摂取しやすくなります。
最近の研究では、歯の喪失や口腔内の清潔さが認知症の発症や進行に影響を与えることが考えられています。訪問歯科の口腔ケアは、認知機能の維持、回復にも貢献しています。
2. 訪問歯科の口腔ケアの具体的な役割 訪問歯科における口腔ケアは、患者さんの状態によって様々なケースに応じた対応が求められます。主な役割は以下のとおりです。
2-1ブラッシング指導・清掃
ご本人が自力で歯を磨ける場合でも、正しいブラッシング方法を指導し、補助器具の使用を提案することが重要です。ご本人での清掃が困難な場合は、歯科衛生士や介護スタッフが口腔清掃を行います。
2-2入れ歯の管理 入れ歯の清掃不良は、口臭や炎症の原因になります。訪問歯科では、入れ歯の適合状態を確認し、清掃の方法を指導したり、必要に応じて修理や調整を行います。
2-3口腔機能の維持・回復
高齢者では、口の筋力が低下し、嚥下(飲み込む機能)が衰えていきます。訪問歯科では、口腔体操やリハビリを行い、口腔機能を維持・回復させるサポートを実施しています。
2-4専門的な処置 口腔内に痛みや炎症がある場合は歯科医師による治療を行い、感染の拡大を防ぎます。また、必要に応じてフッ素塗布や歯石除去などの予防処置を実施します。
3.訪問歯科の口腔ケアを支える連携 訪問歯科の口腔ケアを効果的に実施するためには、患者さんご本人やご家族だけでなく、介護スタッフや医療従事者との連携が不可欠です。
3-1介護スタッフとの連携 介護スタッフは日常的に患者さんと接するため、口腔ケアの実施状況や変化を把握しやすい立場にあります。訪問歯科医と協力し、適切なケア方法を共有することで、より効果的な口腔ケアが可能になります。
3-2主治医、ケアマネジャーとの連携 全身の健康状態と口腔の状態は密接に関係しているため、主治医、ケアマネジャーとも連携しながら治療計画を立てることが望ましいです。
特に糖尿病や心疾患を持つ患者さんは、口腔の炎症が病気を悪化させるリスクがあるため、専門的なケアが求められます。
4. まとめ 訪問歯科における口腔ケアは、単に歯を清潔に保つだけでなく、誤嚥性肺炎の予防や栄養状態の改善、さらには認知症の進行抑制にも関わる重要な役割を果たします。また、患者さんご本人だけでなく、介護スタッフや様々な職種の方との連携を深めることで、より質の高いケアを提供することができます。
高齢者のQOL(生活の質)を向上させるためにも、訪問歯科の口腔ケアを積極的に活用し、健康維持に役立てていきましょう。
日本歯科医師会PRキャラクター「よ坊さん」
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徳島県歯科医師会 理事 須原 秀明 |
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