「糖尿病」と「歯周病」 (令和2年5月)
令和02年05月01日
こんにちは!奈良県歯科医師会です。
令和元年5月から2か月に1回、「大人の歯とお口まわり」について、情報満載の健口コラムを連載しています。元気に働くために、また健康で長生きするために、お口まわりのケアは皆様の想像以上に大切です。
皆様の健康のために、私たち奈良県歯科医師会がお手伝いいたします!
「糖尿病」と「歯周病」 |
糖尿病と歯周病は、ともに代表的な生活習慣病で、生活習慣要因として、食生活や喫煙が関与します。
糖尿病は、喫煙と並んで歯周病の2大危険因子です。
一方、歯周病は、3大合併症といわれる腎症、網膜症、神経症に次いで第6番目の糖尿病合併症でもあり、両者は密接な相互関係にあります。
しかし、慢性炎症としての歯周病をコントロールすることで、糖尿病のコントロール状態が改善する可能性が示唆されています。
≪近年増々増加している糖尿病≫
糖尿病は、血中のブドウ糖濃度が高い状態が続くことで、からだ中の血管が傷つき、それによって末梢神経や目の網膜など、さまざまな器官や臓器に異常が現れ、合併症を伴い死にいたる怖い病気です。
糖尿病が発症・進行する主要なメカニズムの一つに、肥大した脂肪細胞から大量のTNF-α(※)が放出され、血糖値を下げる働きを持つホルモンであるインスリンの働きをブロックする(インスリン抵抗性)ことが分かっています。
※TNF-α:炎症性サイトカイン(脂肪から産生されるタンパク)の一つ。もともと、腫瘍(がん)を壊死させる腫瘍壊死因子として発見された。適量ではからだに必要な物質となるが、増えすぎるとからだのいたる所に問題を起こす。
上の図は、血管内でブドウ糖がヘモグロビンに結合してグリコヘモグロビン(HbA1c)を形成している状況を示しています。ヘモグロビンは、赤血球の中に大量に存在するタンパクで、からだの隅々まで酸素を運搬する役割を担っています。赤血球の寿命はおよそ120日(4か月)と言われています。赤血球はこの間ずっと体内をめぐって、血管内のブドウ糖と少しずつ結びつきます。高血糖すなわち余っているブドウ糖が多ければ多いほど結びつきが増え、HbA1cも多くなるわけです。血中のHbA1c値は、赤血球の寿命の半分くらいにあたる時期の血糖値の平均を反映します。外来で血液検査をすると、その日から1~2か月前の血糖の状態を推定できることになります。正常値は5.5%以下で、6.5%以上であればほぼ糖尿病型と判断してよいこととなっています。
≪糖尿病が及ぼす歯周病への影響-糖尿病の人は、歯周病になりやすい-≫
歯周病は、歯肉の境目のポケット(歯周ポケット)に入り込んで繁殖した嫌気性細菌(歯周病関連細菌)の感染による慢性の炎症性疾患です。
そのでき方(発症)や進み方(進行)には、遺伝的因子や環境因子などに加えて、からだの抵抗性が大きく関与しています。糖尿病により、からだを守るマクロファージの機能低下、結合組織コラーゲン代謝異常、血管壁の変化や脆弱性(細小血管障害)、創傷治癒の遅延などが起こると、歯周病の発症・進行に影響を与えます。したがって、糖尿病があると、歯周病関連細菌により感染しやすくなり、炎症により歯周組織が急激に破壊され、歯周炎が重症化していきます。
≪歯周病が及ぼす糖尿病への影響≫
歯周病関連細菌から出される内毒素が、歯肉から血管内に入り込み、マクロファージからTNF-αの産生を促進します。
TNF-αが多くなるとインスリンの働きをブロックしてしまうので、慢性炎症としての歯周病の存在により、血糖値が上昇し、糖尿病のコントロールをますます困難にし、同時に歯周病自体も進行していくという悪循環に陥ります。
インスリン抵抗性に対して、からだは何とかしようとして、より多くのインスリンを産生しようとします(高インスリン血症)。しかし、高インスリン血症が長く続くと、インスリン産生細胞である膵β細胞が疲労困憊し、末期の糖尿病となります。
≪歯周病治療による糖尿病への影響≫
慢性炎症としての歯周病に対する適切な治療により、糖尿病のコントロール状態をあらわすグリコヘモグロビン(HbA1c)の改善がみられることが明らかになってきました。
そのメカニズムとして、歯周病治療によって、炎症に起因するTNF-α産生量が低下するため、インスリン抵抗性が改善し血糖コントロールが好転すると考えられています。
歯周ポケットへの積極的な歯周病治療により、1か月後でHbA1c・インスリン抵抗性・血中TNF-αや歯周ポケット内の総細菌数の有意な改善が認められたとの報告も多々見られます。
したがって、糖尿病患者で歯周病を伴っている場合は、早期に歯周病の改善を図る必要があります。
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