団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年や現役世代の急減と高齢者人口のピークが同時に訪れる2040年、さらにその先を見据えると、効率的かつ質の高い保健医療を実現し、医療保険制度の持続可能性の確保を図る必要があります。
全国健康保険協会では、事業の改善や事業主・加入者の行動変容を促すための方策の提案及び国への政策提言を行うことを目的として、大学や研究機関などの外部有識者を活用した委託研究事業の募集を行い、令和5年度は下記3件の課題を採択しました。
協会けんぽ加入者の高額医療費集団に特徴的な疾患群に対する効率的医療費適正化を目指した多元統括的研究
研究代表者 | | 慶應義塾大学予防医療センター 伊藤 裕 特任教授 |
研究概要 | | 目的: 協会けんぽ加入者の効率的医療費適正化に資するエビデンスを得るために、各年代・性別において特徴的な疾患群に加えて、業態や地域などの多元的な視点から高額医療費となる要因を統括的に検証する。
方法:
(1)メタボリックシンドロームの病態推移と重症化の要因を縦断解析にて明らかにする。
(2)透析導入に至る地域差の要因を医療者側と患者側の視点から明らかにする。
(3)メンタル疾患と女性特有の疾患に関する病態の詳細を明らかにする。
(4)就労世代におけるフレイルリスクと医療費との関係性を明らかにする。
期待される効果:
(1)(2)効率的な保健事業や医療施策を展開させる上で役立つ知見となる。
(3)診療の質を向上させて若年世代の医療費適正化につながる。
(4)医療費適正化に向けた就労世代の保健事業におけるフレイル予防の意義が明確となる。 |
高血圧治療開始前から治療期までの血圧コントロール不良要因とその地域差の解明
研究代表者 | | 東北医科薬科大学 医学部 目時 弘仁 教授 |
研究概要 | | 目的:
高血圧治療を開始前後の患者特性と薬物治療内容の推移、その地域差を解明し、効率的なアプローチ方法を提言する。 方法:
(1)高血圧薬物治療開始時点における特性を解明する。
(2)処方推移と、服薬アドヒアランスおよび治療不十分の血圧コントロール不良への影響を定量化する。
(3)上記の地域差の解明を介した、各地域別の公衆衛生学的アプローチを模索する。
期待される効果:
未治療高血圧者が高血圧治療の受診に踏み切る時点での状況を把握できる。治療中患者における解析では、血圧コントロール不良の原因を解明できる。さらに、これらの地域差の解明により、高血圧が長く放置されている地域に対しては早期受診推進の提言を、服薬アドヒアランスが不良である地域に対しては服薬指導に関する提言を、といった地域別のアプローチ施策を提案できる。 |
データ分析の結果を活用する新たな保健事業に向けた調査分析及びモデル開発に関する研究
研究代表者 | | 産業医科大学 医学部 村松 圭司 准教授 |
研究概要 | | 目的:
医療提供体制の現状を調査し、医療サービス利用側である加入者に加え、医療提供側も視野に入れた事業展開を可能にするモデルを開発する。 方法:
(1)保健事業に関する協会支部、自治体等へのヒアリング調査
(2)健診、適用、レセプトデータに加え、研究代表者らが作成する二次医療圏単位の医療提供体制データも活用した地域単位の分析
期待される効果:
質的研究と都道府県単位よりも細かい地理的単位での量的研究とを組み合わせて実施することで、保険者として医療提供体制再構築のための政策提言に資する知見を得ることが期待される。
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