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メールマガジン64号(2017年3月5日)

 

「鉄欠乏性貧血について」北海道薬剤師会

 

鉄欠乏性貧血

 鉄欠乏性貧血は鉄分の不足によりヘモグロビンの合成が障害されて貧血が生じる疾患です。
ヘモグロビンはヘム(鉄)とグロビン(たんぱく質)から構成され、ヘムは酸素と結合して、全身に酸素を運ぶ役割を担っています。したがって、体内の鉄が不足するとヘモグロビンが十分に作られず、全身に十分な酸素を運ぶことができなくなり、貧血を起こします。
 日本人女性の約半数は何らかの鉄欠乏状態にあり、鉄欠乏性貧血は女性の10%程度にみられる頻度の高い貧血です。
 健常人の体内に存在する鉄の量は3~4gで、60~70%はヘモグロビン鉄として赤血球中にあり、20~30%が貯蔵鉄として肝臓、脾臓、骨髄に蓄えられています。循環している赤血球の寿命は平均120日です。成人男性では1日1mgの鉄を喪失します。また鉄は吸収効率が悪く、食事から吸収される鉄は1日約1mgでそのバランスが取れています。
 一方、血液1ml中に、鉄は0.5mg含まれているため出血により容易に鉄が失われます。出血量が2mlの場合、鉄1mgが失われることになります。出血の中でも特に重要なのは、月経と消化管出血で、平均月経量は60ml/月と言われており、毎月約30mgの鉄が失われることになり、月経量が多い女性は貧血を起こしやすくなります。また成長期には多くの鉄を必要とするので、相対的に鉄不足になり、貧血を起こしやすくなります。さらに、妊娠や授乳によっても鉄を消費し、鉄欠乏性貧血を起こしやすくなります。

症 状

 貧血の自覚症状としてはめまい、頭痛、疲れやすい、全身倦怠感、動悸、息切れなどがあります。急激に貧血が進行した場合には症状が出現しやすいのですが、緩やかに進行した場合には症状が出現しづらく、気付いた時には重症化していることもあります。
 特に鉄欠乏性貧血の場合、鉄は細胞の増殖に欠かせないため、細胞増殖能の高い皮膚や粘膜、爪などに鉄欠乏による特徴的な症状が見られます。舌は食べ物がしみるようになり、軽い自発痛を生じます。また嚥下困難や異物感を訴えるようになり、流動物は飲み込めても固形物は喉を通らないなどの症状が出現することもあります。また爪は凹凸が激しくなったり、もろく割れやすくなったり、平坦になるなどの症状が見られます。特に爪甲全体がスプーン状にへこむスプーン状爪(spoon nail)という特徴的な症状を呈することもあります。食物の嗜好の変化も見られ氷などを好んで食べるようになる異食症という症状も見られます。(古い教科書では、壁土や鉄なべをかじると記載されているものもありますが、最近は氷について訴える女性が多いようです。)

治 療

貧血には必ず原因があるので、それを明らかにすることが大切です。貧血の症状で思い当たる場合は、医療機関を受診することを勧めます。
 鉄欠乏性貧血の治療は原因の除去と鉄の補充が基本です。鉄欠乏の原因を検索し妊娠・授乳や成長期に伴うものなど以外の治療可能な原因疾患があればその治療を行います。
 鉄剤の補充は原則として経口投与です。経口鉄剤は悪心、胸焼け、腹痛、便秘、下痢などの消化器症状を起こすことがあり、コンプライアンスを低下させます。副作用が強いときは空腹時を避けて、食後に服用することも可能です。また造血に利用される最大鉄量は60~100mg/日とされており、それ以上の量を投与しても意味はありません。副作用の消化器症状を考慮して少量(50mg/日程度)から開始し、最大200mg/日程度に留めることが望ましいとされています。
 服用上の注意として、便が黒くなることがあります。
 また鉄吸収を阻害するものとしてタンニン酸、炭酸マグネシウム、胃酸分泌抑制薬、セフェム系抗生剤などがあります。日本茶のタンニン酸は鉄イオンと結合して吸収を阻害するとされていますが、実際には薬剤服用時に飲む程度では問題にならないと言われています。
鉄剤の投与によって7日~10日後には赤血球が増加し、その後徐々にヘモグロビン値の上昇がみられます。貧血が改善した2~3カ月の時点で鉄剤の投与を中止してしまうと、すぐに再び貧血になってしまいます。貯蔵鉄を反映する血清フェリチン値が正常化する3~6カ月後まで服用を続けることが重要です。

予 防

 貧血を予防するためには、鉄を多く含む食品を十分とることです。鉄を多く含む食品としては、赤身の魚、赤身の肉、レバー、ひじき、ブロッコリー、小松菜、大豆製品などがあります。しかし鉄分を多く含む食品ばかり偏って食べることは他の栄養素の不足にもつながるため、バランスの良い食生活が大切です。