2018年6月「働き方改革関連法案」が可決・成立しました。これにより2019年4月より施行されることとなりましたが、①工作物の建設事業②自動車運転の業務③医業に従事する医師④鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業などの業種においては、急激な変化を起こすことによる弊害を避けるために、 5年後を目途に規制を適用することとなりました。医療に関しては医療界の参加の下で検討の場を設け、規制の具体的な在り方や労働時間の短縮策等について検討し、結論を得ることとされました。医師の行為は国民の生命と健康に直結しており、労働時間制限への拙速な対応により、救急医療をはじめとしたさまざまな方面への影響が考えられるためです。
その前年の2017年8月から、「医師の働き方改革に関する検討会」が立ち上げられ、2019年に最終的な報告書がまとめられました。その結果、医師に適用される時間外労働の上限は基本的に年間960時間(A水準)と設定されました。しかし、地域医療の崩壊を防ぐ観点から、この基準を超える医師が勤務する医療機関(B・連携B・C水準)においては、2024年までに医師労働時間短縮計画や健康確保措置の体制を整え、医療機関勤務環境評価センター(日本医師会)の評価を経て都道府県からの指定を受ける方針となりました。個々の医師の労働時間に関しては、自己研鑽との区別、宿日直の扱い、副業・兼業の実態などを考慮しながら正確に把握した上で、各医療機関において多角的な視点から医師労働時間短縮計画を立てる必要があります。さらに追加的健康確保措置として、月100時間以上の長時間労働医師に対する面接指導や連続勤務時間制限・勤務間インターバル確保などの対策も義務づけられました※1。
(※1…A水準の適用となる医師については努力義務)
<そもそも医師は労働者か?>
厚生労働省は2017年9月21日の医師の働き方改革に関する検討会(座長:岩村正彦=東京大学大学院法学政治学研究科教授)の第2回会合で、第1回会合で出た論点の法律上の解釈を説明しました。この中で、「医師が労基法上の労働者であることを前提としてよいかはまだ微妙」と述べた説明に対し、座長らが「一般的な病院勤務医は、疑う余地なく労働者だ」と一喝しました。医師の働き方の議論ではこれまで、「医師は労働者か否か」が論点となることがありました。こうした議論を踏まえて厚労省の検討会事務局は検討会の冒頭、労働基準法上の労働者性として、第9条「この法律で、『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下、『事業』という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」という法律上の定義を紹介し、実務での判断基準として、「基本的には、事業に使用され、その対償として賃金が支払われている者であるか否かによって判断される」と説明してきました。この検討会の議論で、医療機関と雇用契約を結んでいる限り労働基準法上の労働者に該当するため、「医師も労働者」とみなされることとなりました。
<医療機関はどう変わる?>
各医療機関において医師は、患者さんの健康や生命を守るために、家族や自身の心身を顧みず、必死に研究に励み診療にあたってきました。それが医師の健康を害する結果となることも多々ありました。そのため、このような医師の働き方改革が提唱される一因にもなりました。今後は地域住民の皆様や市町村長さんが求める、24時間・365日の診療体制を継続することが困難になる地域も出てくると思います。不要不急の患者さんはお断りすることも考えられます。地域の医療機関では、何とか以前のような医療体制を継続できないかと検討をしていますが、時間外労働や出張医の勤務時間の関係があり、難しい場面も想定されます。
現在各医療機関では、あと1年に迫った法施行日(2024年4月)に向けて必死の対策を練っています。数か月後には、それぞれの地域の中核となる医療機関が自院の対策を広報する必要が出てくるものと思われます。
<受診はどう変わる?>
患者さんは定期的に医療機関の診療時間内に受診する必要があります。不要不急な受診は敬遠されます。『仕事の都合で日中は受診できないので、夜間に来ました。』という患者さんは、医療機関にとっては、大迷惑になります。そのような方が、地域の医療を崩壊させている元凶になっているのです。大学などの病院から派遣されている医師は、地域で働いた時間も労働時間として計算されますので、当直に来て救急の患者さんを診た時間を加算されると、大学での勤務時間が削減され、大学の勤務に支障を来します。そうすると大学からはその医療機関に出張医を派遣しないことにもなりかねません。
出張に来ている医師だけではなく、病院勤務医にも労働時間に制約があります。いつも見て頂いている医師が、その制約のため診察時間を変更する場合もありますので、よく確認をして受診して頂きたいと思います。
むろん、急に発症した頭痛・胸痛・腹痛などは命に係わる病気の可能性が高く、急いで医療機関を受診する必要がありますので、普段から自身の健康状態の把握が重要です。