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櫃本氏:第10回「生き抜くために緩和ケアを正しく知っておこう」

第10回「生き抜くために緩和ケアを正しく知っておこう  」

愛媛大学医学部附属病院医療福祉支援センター長

櫃本 真聿氏

 

 “緩和ケア”という言葉を聞かれたことがありますか。とても誤解が多いのですが、緩和ケアはターミナルケアいわゆる終末期医療といった末期がんに限ったものではありません。主治医から「やれるだけの治療はやったので後は緩和ケアだけですね」と最後通告ともいえる説明を受けるケースが、未だに少なくないのも事実です。医療者ですら理解不足ですので、一般的に誤解が多いのも仕方ないですね。しかし本来は、治る・治らない、早期・末期に関わらず、すべてのがん患者さんに必要なケアであり、最近ではがんでなくとも、心疾患・呼吸器疾患・神経難病など根治し難いすべての疾患に対象が広げられてきています。

 緩和ケアのキーワードである「全人的ケア」「疼痛緩和」「その他の症状緩和」「インフォームド・コンセント」「チーム医療」「生命倫理」はあらゆる医療において必須です。人が生まれ、生き、病を得て、死を迎える。そういったすべての人に訪れる「生・死」に関わるのが緩和ケアです。死を考えることにより、今生きている意味を振り返り、QOL(生活の質・いきがい)の向上を図るためにも、緩和ケアは重要な支援となります。がん患者の多くは、たとえ早期でも死を考え精神的に落ち込むのは常だと思います。また病気だけでなく経済的な不安も少なくないでしょう。医療の進歩により、治る病気は増えたように思われますが、世界一の高齢社会では、治らない疾患も急増しています。悪いところを見つけだし標的として治療する、悪因を叩くといった外からの力による医療よりも、その人らしい人生を実現するためのケアが、患者の主体性を向上し、自らの治癒力を引き出すことにつながります。このようなエンパワメント(内なる力を引き出す)医療が、緩和ケアの根幹であり、ますます重視されることになったと思います。

 しかし、医療の現場では延命のための病気と闘う治療が優先され、痛みや呼吸困難で苦しむ患者さんが多く存在しています。人間の死亡率は100%であり、治らない疾患が増えているにもかかわらず、未だ医療界では根治不能の患者さんは「敗北」との印象が払拭できていません。緩和ケアは決して後ろ向きではなく、積極的な全人的ケアであることを再度強調したいと思います。病気を治すことを一番としたこれまでの医師の価値観を変えていくためには、急性期病院主導の医療の現状では時間がかかると思われます。むしろ患者・住民の方が、緩和ケアの真意を理解して、医療者に明確な自らの生き方の意志を伝えることで、医療を変革していく大きな力となることを期待しています。

 


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