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櫃本氏:第2回「ストレスを原動力に」

第2回「ストレスを原動力に」

愛媛大学医学部附属病院医療福祉支援センター長

櫃本 真聿氏

 

  我が国の自殺による死亡率は、世界の先頭を走っています。3万人を超える自殺者が毎年減ることもなくこの数年継続しているのです。自殺予防キャンペーンなどの啓発事業や相談窓口の設置など、行政も取り組んではきてはおりますが、改善にはつながらず行き詰まった状況です。

 一方地域では、腹囲に着目したいわゆるメタボ(メタボリックシンドローム)対策にこのところ重点がおかれていますが、日本人の肥満状況は欧米諸国から見れば極めて低いレベルにあります(肥満者は米国の10分の1)。将来に向けて“警鐘を鳴らす”といった観点から見れば、メタボ対策はマスコミの話題づくりや健康関連企業のビジネスチャンスにもつながり、国民の一大関心事となったことは、評価していいかもしれません。しかし、わが国の課題はむしろ心の健康であり、最悪の結果である自殺やその最要因であるうつ病への対策に積極的に取り組んでいく必要性を痛感しています。

 しかし経済不況を背景に、先の見えない不安が容赦なく襲いかかっています。ストレスを避けることは至難の技で、本来誠実が売りの日本人の国民性には、極めて深刻な影響をもたらしています。ストレスのない生活を送っている人は極めて少なく今後増える一方だといっても過言ではないでしょう。行政や専門家頼りでは到底解決しそうにありません。それぞれがむしろストレスと向き合い、どう付き合っていくかを、自ら考えることが鍵となるでしょう。

 一つにストレスの原因(ストレッサー)を見極めることができれば、その反対の行動をとるなど、ストレスの解消はある程度できる場合も少なくありません。一方ストレッサーを避けずにどう付き合うかも重要で、ストレスを活用するという考え方が肝要です。

 ストレスと上手に付き合うためには、そのポイントは、「やらされ感覚」を「自ら取り組む主体性」に切り替えることだと思います。手段に振り回され、目的があいまいとなり、いつの間にかやらされている感覚になり、それがストレスを抱え込んで悩むことにつながるのだと思います。目的の明確化・共有化をはかり、主体性を引き出すことが、ストレスと上手に付き合う第一歩です。狙いが明確になれば、最も重要なことが見えてきて、枝葉のことに振り回されることなく、本質を見て、着実に取り組んでいくことが可能になります。目の前の手段に振り回されず、やらされ感覚から脱却することです。目的(ミッション)を実現するためにストレスがかかると認識して、むしろそのストレスを原動力にしていく姿勢が大切だと思います。目的を見直すほんの僅かな“ゆとり”を確保することがその分かれ道になるのだと思います。

 


【バックナンバー】

  • 第1回「健康とは ~生き方・死に方を考える」