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櫃本氏:第8回「医療を生活の資源として取り戻す」

第8回「医療を生活の資源として取り戻す」

愛媛大学医学部附属病院医療福祉支援センター長

櫃本 真聿氏 

  

 医療の進歩とともに、人の“生”や“死”に直面する機会が、日常生活から切り離され、多くは医療施設内に限られるようになってきました。そのことで住民は 生や死が現実の生活から切り離され、命の尊さの実感や死ぬことの認識が低下し、自分らしい生き方の自己決定力や健康感についての自覚も乏しくなってきているように思います。一方医療者側は、医療制度や診療報酬改訂に振り回され、患者のニーズや地域特性など最も考慮すべき本来のEBM(医療を行う上での科学的根拠)への軽視化と共に、医療の進歩とは言いながら 医療者側の都合を重視した技術サービスの提供が先行してきたように思われます。この“ズレ”が 医療者と患者・住民との信頼関係の低下の大きな原因になっているように感じています。

 また、医療にかかりやすいという安心感の反面、医療に頼りすぎる弊害を招くといった 日本の国民皆保険制度からくる問題も否めません。健診を受けない理由の第一位が、「調子が悪くなったら医療機関を受診する」であることは、この一面を端的に表していると思います。医療にかかれば何とかなるといった 依存心による「安心感」は、主体的な健康づくりや自分らしい死に方を想定した生き方を阻害する要因にもつながります。

 医療への過剰依存を見直して この状況から脱却し、医療を生活資源として活用する意識や体制作りが課題です。枝葉ではない根幹の議論を通じて、「健康を守る社会基盤の再構築」を目的に、医療を地域の資源として取り戻す地域の取り組みが不可欠だと思います。

 昨今のマスコミの報道が、1) 医師・医療者不足、2)医療訴訟・医療安全、3)コンビニ受診、4)モンスターペーシェント、5) 医療者の疲弊、6)住民・患者の不安増加、7)医療・介護難民の急増など、興味本位的な不安をあおる表現に偏っている傾向もあり、医療者と患者との信頼関係の崩壊を助長する原因になっているようにも思えて仕方がありません。断面的かつインパクト重視の映像やコメントでは全体像が見えないし、物事の本質を見失う要因となります。たとえば、“たらい回し”や“医師不足”は表面化した事象であって、現代の医療問題の本質ではありません。

 医療者と患者との間だけでは解決しがたい課題でもあり、多くの関係機関が協働することが解決への唯一の道なのです。行政・教育・産業・マスコミなど地域資源を総動員した、健康を守るための社会水準の向上が求められています。 

 


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